senochi2005-08-08

『SP−D レコ発ワンマン』
ビデオのラベルにはそう書かれている。異様に汗ばんだ手の中にあるそいつを、俺はもう一度確認する。間違いない。

間違いないのだ。

ラベルにそう書かれている以上、このビデオを再生すればあの日のレコ発の模様が映し出されるべきであって、現に俺は6月8日の、あの熱に浮かされたようなひと時の映像を何度も見ているのだ。このビデオで。
震える手でデッキにテープを押し込む。これで幾度繰り返したかわからない一連の動作を、俺は祈るように行う。もう一度だ。そして、再生。
ブルー一色の画面が数秒続き、ノイズが乱れ飛んだ直後に大写しの文字が映った。

        チャングム

わけがわからない。何故こういうことになったのだろうか? 俺の思考回路は既ににショート寸前であり、所在の置き所の無い怒りで冷静な判断力は磨耗しきっているのであり、それらの全てが冷房で冷え切った部屋の中でも俺に異様な量の発汗を促しているのである。やがて、責任の追及というよりは自己保身及び責任転嫁の為だけに俺のCPUは稼動率を上げ始める。このビデオがSP−D二人の持ち物だからだ。勿論1本しかない。

途方に暮れて階下へ降り、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出す瞬間に俺は見た。居間のラックに整然と並ぶビデオテープを。
          
         『チャングム・第1話 2話』

母親の手書きラベルを貼ったそいつは第49話まで続いていた。そしてどう見ても15話・16話のテープが抜けているのだ。最早事実を確認する気力も無いが、間違いなく空白の15話・16話は俺の部屋にある。

今、『SP−Dレコ発 ワンマン』と書かれていたテープは、『チャングム・第15話 16話』というラベルに付け替えられ居間のラックに並んでいる。