とあるドライバーのフン慨

ふと思い立って生業という言葉を辞書で繰ってみた。[生業・なりわい] ― 生計の為の職業。とあった。而して考えてみるに、「あなたなんですのん?」と人に問われれば「拙者ミュージシャンでござりまする」と自信満々に答えるワタクシなんですが、「何をして渡世の活計とされておるのか?」と問われれば、やはりここは「ドライバーだす」と答えねばならん。ムフゥー。
生計の為ではない職業はミュージシャンなんだが生計の為の職業はドライバーなんだな。と書いてしまうと、前者は使命溢れる崇高な職で後者はなんだか・・・。というふうに受け取られそうだが違うのだ! 職に貴賎はないのだ。あるとするなら人の貴賎なのです。という訳で今日はその『人の貴賎』なる部分を掘り下げたいの。

ワタクシ、前述いたしましたがドライバーで生計を立てておりまして、この世界もはや1年はたとうかというベテラン中のベテランなのですがね、この頃になりましてやっとドライバーの極意というものに辿り着いたのです。それはそう、トイレです。優秀な船乗りには行く先々の国に現地妻がいるように、優秀なトラック乗りには行く先々に清潔なトイレがあるのです。
例えば今は夏の盛り。暑いから暇さえあれば水分補給ですよ。すると当然のごとく抑がたい欲求が頻繁に襲ってくるのです。免許をお持ちの方なら誰もが経験したことのあるあの欲求です。こちらの事情などお構いなしなのです。しかーし! 違いますよベテランともなると、ええ。
そういう時に即座に対処できるように、我々、言うたらプロのドライバーはね、常に頭の中に清潔なトイレのある場所がいくつもインプットされているのです。ですから有事の際にもね、無闇にとばしたりせずにあくまでもエレガントに道を走っていられるわけです。
で、今日もワタクシ不意の尿意に襲われましてね、まあココならアソコだな。と、即座にトイレマップが脳内に展開されたわけです。んで慌てず騒がず、優雅に目的の場所へトラックを乗り入れたのです。そのトイレはね、黒部の山の中にありまして、細い道を抜けてゆくとまるで大草原の小さな家のようなたたずまいでチョコンと存在する、ログハウス風のトイレなのです。民家もない山の中ですから、開放感と安心感でいえば五つ星ですよ。俺の中で。したらさ、その細い道の入り口にね、しかもど真ん中にね、まるで侵入するものを阻む道祖神のごときたたずまいでね、そりゃもう大きな糞が鎮座してましたの。しかもアンタ、獣の糞ならいざ知らず間違いなく人糞なんですもの。イヤ別にその道の権威ではないんだけどねワタクシ。だってティッシュが山盛りになって置いてあんだものさ、どこの獣がティッシュ使う? そりゃ気分悪いですよ実際。
もうそれだけで1日ブルーですわ。誰やねん! もうちょっと行ったらすぐトイレあるやん! あんなもの悪意以外の何ものでもないですよ。ほんとに我慢できんのやったらもう少し脇の方でしとけよ! 

今日お気に入りのトイレが一つ消えました。