聴くのは永ちゃん。ヘアスプレーでガチガチに固めておったてた髪。で、咥えタバコに目をしかめながら平日の真っ昼間からマージャン。当時小6だった近所に住むKくんの日常。その時僕は中学1年生で、時々、本当に時々学校をサボッては、Kくんの家で聴きなれない音楽に分かったような顔でうなずき、分かったような顔でマージャンに見入り、嘔吐をこらえてタバコを咥えたりしていた。時効でしょ? 多分。
この1つ年下の、どうしようもない悪ガキのKくんに、僕はいろんな悪事を随分教わった。夜中の町をうろつく楽しさも、女の人の体が具体的にはどんなふうになってんのかなんてことも。(Kくんがこっそり盗み出してきた彼の親父さん秘蔵の本やビデオなんかで知った。衝撃だった)
そんなKくんが少し前に、数年ぶりで電話をかけてきた。お前さえよければ、ウチで働いてみないか? って内容の電話だった。Kくんは今看板屋をやっている。中学を卒業してその業種に就き、何年か修行して独り立ちした。僕もそれは知っていたんだけれど、なんで俺に? って思うよ正直。そしたら、人づてに「アイツまた仕事辞めてフラフラしてんじゃねえか?」なんて噂を聞いたらしいんだな。で、アイツはこれじゃあイカン! ダメになると・・・。で連絡くれたらしい。面目ねえなあ。ゴメンな、心配かけて。髪かな? この髪の色がアカンのかなやっぱり。なんて話し込むこと数分、僕が今の僕の状況を説明すると素直に喜んでくれた。
レコ発のライブにも来てくれたし、CDも買ってくれた。嬉しかった。そんなこともあってほんの数日前、本当に久しぶりに二人で差し向かいの飯を食った。今にして思えばあの頃、必死に大人ぶって大人になろうとしていたKくんは、ちょっとびっくりするくらい立派な大人になって僕の目の前に座っていた。
僕がこの町にいなかった数年の間に、いろんなことがあったと教えてくれた。Kくんは1度結婚に失敗した。父親が仕事を引退して、事実上彼が家庭を支える存在になった。仕事で人を使うようになった。重い責任がいくつも彼の体にのしかかる。そして今、彼はもう一つ責任を負おうとしている。近いうちに入籍するらしい。おめでとう!
酒に酔いながら、Kくんは何度も僕に「お前はスゴイ。ずっと夢を諦めないでスゴイよ」と言った。違うんだよK、俺は全然スゴくねえんだよ。お前の方がスゴイよ。俺の100万倍はスゴイよホント。

時々また一緒に飯食おう。