夕方、町田WEST VOXに到着。これでツアー最後の夜だ。正直ホッとしていた。知らない土地での緊張の連続に疲労していた。旅先で体調を万全に保つことは難しい。
中に入ると既に幾人ものミュージシャンたちが到着していた。この日は『3F』という飛び入り参加型のイベントの日。草一郎さんが企画した3DAY'Sイベント『旅の途中で出逢った素晴らしき歌い手達 VOL1』の最終日でもある。我々富山組、新潟のシオンさん、他にも県外からのゲストが多数参加して、関東のミュージシャンを含め十数組の出演だ。知らないミュージシャン達に囲まれ緊張していたのだが、イベントが始まり草一郎さんがステージに上がるのを見たら吹き飛んでしまった。草一郎さんの唄を久しぶりに聴いた気がした。心が震えた。数年前に初めて聴いた時も今もこの気持ちは変わらない。ずっと憧れの存在だ。
数曲を唄い、そこからキーボードでシオンさんが、ギターでジョニーさんが、パーカッションで英子ちゃんが加わった。最後に何の打ち合わせもなく草一郎さんが新曲を始め、メンバー全員が戸惑いながら合わせていく姿に思い切り笑い、やがて会場全体が引き込まれて大合唱へ。それは誰かが強要するものではなく、そこにいた誰もが気づけば自然と口を開いて唄っている。始まったばかりで大団円だ。すごい。
この『3F』というイベント、最初にメインのグループが2組演奏し、その後に飛び入りライブが始まるというもの。次に出てきた『りぶさん』という4人編成のバンドも素晴らしかった! なんて楽しいんだろうか。皆で立ち上がり、手を振り上げて踊った。一発で爽快なPOP’Sの虜になってしまった。是非また観たいと思った。
2つのグループの演奏が終わり、そこから先は飛び入りのライブ。事前に申し込みを済ませ、発表された出演順に1曲ずつ披露してゆく。
各々素晴らしいミュージシャンたちのレベルの高い演奏。だが不思議と気負いも緊張も無く、ただ楽しもうという気持ちで自分の出番を待っていた。SP-D前に鼻毛の森。まさに一曲入魂。たった2日の間に大きな変化があったようだ。頼もしかったし我が事のように得意に感じた。SP-Dは『LESSON』を演奏。正直浮かれていて自分たちがどんなだったか覚えてない。
シオンさんが『男唄』を静かに唄い始めた。東京に居る間、風邪をひいてずっとノドの調子が良くなかったシオンさん。なんであの人はステージに立つと何事も無かったようにまっすぐ力強く唄えるんだろう?ずっと辛そうにしていたイメージが一瞬で吹き飛んで、後は唄の世界に引き込まれた。男唄が大好きなんです。また聴かせてください。お疲れ様でした!!

出演者の数が異常に多かったはずなのにイベントはあっという間に終わり、そのままライブハウスで打ち上げが始まった。WEST VOXの代表である西さんが料理を用意してくれ、皆思い思いの席で大いに盛り上がった。ステージを隠す緞帳のように下がった大きなスクリーンの中ではビリージョエルが歌い続けている。
We Didn't Start The Fire!
自分の中に燻り続けている小さな炎は、多分、きっと、音楽と出会うずっと前から燃え続けていたんだと、高揚した気分の中で一緒に叫びたくなった。
飛び入りイベントの参加者の中に、岩手から来ていたやなぎさんという方がいて、彼の唄っていた日本語詞のLike a rolling stoneが無茶苦茶カッコよく、とても気になっていたので思い切って話し掛けてみた。あれはもともとある日本語詞なんですか? と尋ねる俺に、「ああ、あれね」とやなぎさんはカバンの中からファイルを取り出し、件の詞を抜き出すと「これ、やるよ」と言った。
「ええっ! いいんですか?」と驚く俺に、「いいよ、でもすごい字余りだから唄いづらいよ」と言ってくれた。嬉しかった。練習していつか路上で唄わしてもらいます。と言う俺に快諾してくれたやなぎさん。これムズいっす。練習します!

夜も更け、出演者たちもパラパラと帰り始め、WEST VOXの中にいつか、祭りの後のような静かで寂しい空気が流れ始めた。皆に促され、「唄ってくれ〜!」と、ほとんど無理やりステージに引っ張り上げられた西さん。3日間ここで一緒に寝泊りした皆が帰ってしまうのが本当に寂しいと涙ぐんでいた。こんなに温かいWEST VOXで、3日間寝食を共にした鼻毛の森や英子ちゃん、シオンさんたちが心底羨ましかった。絶対また行きたい。たった1日でWEST VOXという場所が大好きになった。

深夜2時。我々を含めた地方組も帰らなければいけない。草一郎さんはテーブルに突っ伏して眠っている。皆の話ではイベントのためにろくに眠らないで東奔西走していたそうだ。揺り動かされて起きた草一郎さんが、皆を見送ると、少しよろめきながら先に外へ出て行った。
皆一様に去り難く、皆一様に別れを惜しんでいる。色んな想いが重なって、男たちが手放しで泣いている。尊敬して止まない男たちの涙。たった1日しかいなかった俺が泣くのは可笑しい気がして必死で堪えた。無理だった。どうしても無理で、後は出るに任せた。音楽をやっていて、こんな気持ちになったのは初めてだった。




・・・と、更新が遅れましたがGW中のツアーはこんな具合でした。思ったこと、感じたこと、素直に伝えたかったのでいつもの僕らしくない文体で書かせていただきました。本当にあんなに感動して、涙が止まらなくなるほど心に残ったライブは初めてで、あるいはそれは疲れきって無防備になった感情がそうさせたのかもしれませんが、それでもあの日、いや、『旅の途中で出逢った素晴らしき歌い手達 VOL1』
の3日間、町田WEST VOXでは奇跡が起こっていたんです。誇張でもなんでもなく。

5月16日火曜日。全国ツアーでもみの木ハウスにやって来た、C-kunという素晴らしいアーティストとご一緒させていただきました。出番前、楽屋でC-kunが「皆さんの友達から応援メッセージいただいてきましたよ」とおっしゃるので、誰? 誰やろ? と思っていたら伊織君だった。こうして色んな場所のミュージシャンたちと繋がっていける。音楽は素晴らしいです。