senochi2004-10-13

深まる秋の宵の口、開け放した窓から入り込む風が風呂上りの火照った身体に心地よいので、写経を始めようと思った。
思い立ったが吉日というが、思いつくままに行動を開始したのでは考え無しというものなので、まずは必要なものを箇条書きにしてみた。
まずは筆。これは行書用の柔らかい物が好ましい。毛は鼬、もしくは羊。柄の部分はちゃんと木から職人の手で削りだしたものが良かろう。およそ一万五千円也。
そして筆ときたら矢張り墨を磨りたいものだ。当然硯が必要になってくる。これも是非名品を使用したい。端渓、およそ二十万円から四十万円也。
そして最後に紙。専用の写経用紙があるのでこれを使用したい。開運写経用紙梵字入り、一本三千円也。
中々の出費であるが、それもこれも写経の為なのでいたしかたない。月賦にするしかあるまい。興がのってきたら一つ文机も購入しよう。
と、ここで愕然とした。物欲を捨てんが為の写経であるのに、早くも物欲の虜になってしまっている。これでは本末顛倒も甚だしい。色即是空 空即是色。気は心、弘法筆を選ばずなのであるからしてここは一つ筆ペンにしよう。紙は近所のスーパーの特売のチラシで十分なのです。道具の高価さと信心には何の因果関係もなかろう。
と、勢い込んで写経を開始したは良いがどうにも欝になってくるので早々に止した。僕にはむいておらん。