哀愁のブタトラック

最近僕アレですの。運転手の仕事してますの。毎日毎日2tトラックに乗り込んで8号線を朝日くんだりまでブッ飛ばしておるわけですの。したらアレですわ、今日の入善〜魚津間。さあ今日の配達も終わったし高岡まで帰るぜいってことで窓全開でプップ〜ってなもんで気持ちよく走っておったんです。おうおう、田んぼやら畑やらがあるせいか微かに肥の香がしとるわい。いやいや、情緒やないですか情緒。なんちゅーてラジオに合わせて鼻歌をはなずさんだりね。そしたら僕の前を行く巨大な10tくらいのトラックが妙にせわしないのですなあ。道が混んでてイライラしとるんでしょうか。あそこずっと1車線やから焦ってもしょうがないのにね。それにしても急ブレーキ踏んだり車体を左右に振ってみたり本当に鬱陶しい。「早よウチに帰りたいのはみんな一緒なんじゃボケッ!」くらいのことは思いますね、いくら温厚な僕でもね。なんとなれば肥やしの匂い。もうずーっと臭いんです。どこで撒いたもんがこんだけ匂うのか、走れども走れども肥やしの匂い。あそこらへんの農家の方たちは6月22日に一斉に肥やしを撒きやがるのでしょうか。デモか?そうなのか?などと思っておったら件の10tトラックがすうっと左折して行きました。したらなんのこっちゃない、目の前にブタを満載したトラックがノロノロ走っておったのです。コイツか!コイツが匂いやがるのか!と思う間もなく、ツーンと車内に香ばしい匂いが充満しまして、あわや反対車線に飛び出して接触事故か!くらいの勢いでハンドルをとられつつも窓を完全に閉め、さらには切り替えスイッチで外気をシャットアウトしたのです。にもかかわらず、強烈な臭気は間断なく襲いかかってきやがるし、ブタトラックはブタばかりを気遣って妙にノロノロしやがるし、追い越したいけど追い越し禁止だしで、今度は僕がイライラするハメになったのですねえ。オメエいいからどけよ、とばかりに車間をつめ、つめたらつめたでまた臭くてイライラ。無闇に煙草を吸いました。
それにしてもブタの野郎ども、人間様に迷惑かけて、自分達はのうのうと餌を食っていやがる。厚顔無恥にもほどがあるってもんだ。と、なんら責められるいわれの無いブタに向かって、心の中で罵倒したり非難したりしておったのですが、何かの拍子にその中の一匹がひょいっと顔を上げて鉄柵の向こうから僕を見つめてきたのですなあ。ブタの顔を正面からまじまじと見たことなんてなかったけれど、中々愛嬌のある顔をしてました。で、目ね。なんとも言えん目をしとるんです、ブタってヤツは。卑屈って言うのではないし、諦念って言うのとも違うような、静かで遠い目をしております。何代にもわたって食べられ続けてきたらあんな目になるんだろうかね。
ああ、今から殺されに行くんだろうなあ、なんて思ったら『ドナドナ』が頭をよぎりました。そんで僕はゆっくりと車間をあけたのです。